多糖類

天然高分子化合物

 一般に,分子量が10000を超えるような物質を高分子化合物という。多くの高分子化合物は,多数の分子量の小さな分子が〔 付加 〕や〔 縮合 〕によって重合し,一定のくり返し単位が多数結合した構造をとっている。この低分子を〔 単量体 〕または〔 モノマー 〕,生成する高分子を〔 重合体 〕または〔 ポリマー 〕という。例えば,デンプンはα-グルコースC6H12O6が単量体となり,H2Oがとれて縮合重合したものである。そのため,C6H10O5 のくり返し構造となり(C6H10O5)nと表される。このnを〔 重合度 〕という。

 
 

高分子化合物は低分子化合物と異なり,同じ分子式で表される物質でも,重合度が異なるものが集まっているので,融点などは明確な値を示さない。分子量は平均値(平均分子量)で表される

 また,純粋な低分子化合物は分子が規則正しく配列して結晶となるが,高分子化合物は分子全体が規則正しく配列することはなく,規則正しく配列した部分(結晶領域)と不規則になっている部分(非結晶領域)が入り混じった構造となっている

 高分子化合物は1個の分子でもコロイド粒子の大きさ(直径109107m)になるものが多く,一般に溶媒には溶解しないが,コロイド溶液(コロイド粒子が溶媒に分散している状態)になることがある

 

【多糖類】

 同一の単糖が脱水縮合によって,多数結合したものが多糖である。〔 デンプン 〕や〔 セルロース 〕などがあり,生体内に多く存在している。多糖は単糖のへミアセタール構造がないので,〔 還元性 〕を示さない。

 

【デンプン】 

デンプンの構造

デンプン(C6H10O5)n は多数の〔 α−グルコース 〕が縮合したもので,米などの穀物に多く含まれている。デンプンには〔 アミロース 〕と〔 アミロペクチン 〕がある。アミロースはα-グルコースが1位と4位の炭素原子につくOHで結合し,直鎖状に結合する。

一方,アミロペクチンはα-グルコースの直鎖のところどころに枝分かれが生じる。これは,ところどころでα-グルコースが1位と6位の炭素原子につくOHで縮合するためである

通常の米はアミロースが2025%含まれ,もち米はアミロペクチンが100%である。

動物の肝臓や筋肉に貯蔵されているデンプンを〔 グリコーゲン 〕といい,動物デンプンともいわれる。グリコーゲンの構造はアミロペクチンと同じであるが枝分かれが著しく多い(左下)。 

 

ヨウ素デンプン反応

デンプンはグルコース6個で一回転するような,〔 らせん 〕構造をとっており,その形は分子内の−OH間に生じる〔 水素結合 〕によって保持されている。

デンプンの水溶液にヨウ素溶液を加えると,デンプン分子のらせん構造の中にI2分子が入り込み,青〜青紫色を呈する(右上)。この反応をヨウ素デンプン反応という。らせんが長い構造をしているものほどより多くのI2分子が入り込む。呈色は入り込んだI2分子が多くなるにつれ,赤→赤紫→青紫→青と変化する。アミロースはらせんが長いので濃い青になるが,アミロペクチンは枝分かれがあるため,らせんは短くなるので青紫〜赤紫になる。グリコーゲンは赤褐色になる。

ヨウ素デンプン反応の呈色は,加熱するとデンプンのらせん構造がくずれるため,入り込んでいたI2分子が離れるので色が消失する。冷やすと再び結合して色がつく。

加水分解

デンプン(C6H10O5)nに希塩酸や希硫酸などを作用させると,デンプンよりも重合度の低い〔 デキストリン 〕(C6H10O5)n nn’)を経てグルコースまで分解される。酵素〔 アミラーゼ 〕を作用させると,デキストリンを経て〔 マルトース 〕まで分解される。 

 
 

【セルロース】

セルロース(C6H10O5)n は多数の〔 β−グルコース 〕が1位と4位の炭素原子のOHで縮合したもので,植物細胞の細胞壁の主成分である。水やその他の溶媒に溶けにくく,繊維として利用される。セルロースは隣り合うグルコース分子の上下が逆になり,らせん構造をとらず,直線状になる。そのため,セルロースはヨウ素デンプン反応を示さない。また,平行に並んだ直線分子間にはOHによる〔 水素結合 〕が生じるためセルロースは丈夫な繊維になる。

セルロースは酵素〔 セルラーゼ 〕によって,二糖の〔 セロビオース 〕まで分解される。

 
 

セルロースの誘導体】

セルロース(C6H10O5)n 1つのグルコースの単位にヒドロキシ基が3個あるので,〔 [C6H7O2(OH)3]n 〕のように表すことがある。この3つのヒドロキシ基を色々な構造に変化させることにより,有用な物質をつくることができる。

 

ニトロセルロース

 セルロース(綿,パルプ)に〔 濃硝酸 〕と〔 濃硫酸 〕の混合溶液(混酸)を作用させると,セルロースのヒドロキシ基−OHが硝酸エステル−ONO2となる。これがニトロセルロースである。

[C6H7O2(OH)3]n + 3nHNO3 → [C6H7O2(ONO2)3]n + 3nH2O

 
 
 ニトロセルロースの窒素の割合(質量%)を硝化度といい,トリニトロセルロース[C6H7O2(ONO2)3]nでは14.1%,ジニトロセルロース[C6H7O2(OH)(ONO2)2]nでは11.1%となる。ニトロセルロースは硝化綿とよばれ,硝化度が13%を超えるものを強綿薬といい,トリニトロセルロースは強綿薬となる。強綿薬は点火すると瞬時に燃焼するため,無煙火薬の原料となる。

硝化度1013%のニトロセルロースを弱綿薬という。ジニトロセルロースは弱綿薬の主成分となる。弱綿薬をエタノールに溶解したものを コロジオンといい,溶媒を蒸発させ膜状にしたものは透析膜に使われる。さらに硝化度を下げたものは脆綿薬とよばれ,可塑剤(柔軟性を持たせる薬剤)と混ぜ練り合わせた樹脂状のものはセルロイドとよばれる。セルロイドは,かつては文房具,玩具,映画フィルムなどなど様々な用途があったが,燃えやすいという欠点もあり,現在では石油系プラスチックに取って代わられている。

 

再生繊維(レーヨン)

セルロースを化学処理で一度溶解後,成分を再生させ繊維にしたものを〔 再生繊維 〕といい,セルロースの再生繊維を〔 レーヨン 〕または人造絹糸という。レーヨンにはビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨンがある。

セルロースを濃い水酸化ナトリウムと二硫化炭素CS2で処理すると赤褐色透明のコロイド溶液ができる。これを〔 ビスコース 〕という。ビスコースを希硫酸中に細孔から押し出すと繊維状に凝固すると共にセルロースが再生して繊維が得られる。この繊維を〔 ビスコースレーヨン 〕という。また,ビスコースを膜状に再生したものを 〔 セロハン 〕という。

水酸化銅(U)Cu(OH)2を濃アンモニア水に溶かした深青色溶液(Cu(OH)24NH3[Cu(NH3)4]2+2OH)を〔 シュバイツァー試薬 〕という。セルロースをシュバイツァー試薬に溶かすと粘性のある液体が得られる。この溶液を細孔から希硫酸中に押し出すとセルロースが再生して繊維が得られる。この繊維を〔 銅アンモニアレーヨン 〕または〔 キュプラ 〕という。

 

半合成繊維(アセテート)

セルロースに酢酸(溶媒)と無水酢酸 (CH3CO)2および少量の濃硫酸(触媒)を作用させると,セルロース中のヒドロキシ基がエステル化(-OHHがアセチル基CH3CO-と置き換わり,-OCOCH3となる)されて〔 トリアセチルセルロース 〕ができる。トリアセチルセルロースは分子中のOH基が完全にエステル化(アセチル化)されているため溶媒に溶けにくい。そこで,水を加え約50°C に保つと,エステルの一部が加水分解されて,アセトンに可溶な〔 ジアセチルセルロース 〕が得られる。このアセトン溶液を細孔から空気中に押し出して乾燥すると〔 アセテート 〕という繊維が得られる。アセテートのように天然繊維を加工したものを〔 半合成繊維 〕という。

 

 [C6H7O2(OH)3]n + 3n(CH3CO)2 → [C6H7O2(OCOCH3)3]n + 3nCH3COOH

 
 

[C6H7O2(OCOCH3)3]n + nH2O → [C6H7O2(OH)(OCOCH3)2]n + nCH3COOH

 

例題 次の各問いに答えよ。H1.0C12O16Cu64

(1) デンプン32.4gをすべてマルトースまでにすると,生じるマルトースは何gか。

(2) 分子量が2.43×105のアミロース中のグルコース単位の個数はいくらか。

(3) スクロース1.71gを水に溶かし,酵素を用いて加水分解した。この反応液に過剰のフェーリング液を加えて反応させたところ,酸化銅(T)の沈殿が0.409g生じた。1molの単糖から1molの酸化銅(T)が生成するものとして,スクロースの何%が加水分解されたか求めよ。

(4) アセテート繊維41gをつくるためには,もとのセルロースが何g必要か。

(5) 8.1gのセルロースを完全にアセチル化するのに必要な無水酢酸の質量〔g〕,および得られるトリアセチルセルロースの質量〔g〕を,有効数字2桁で求めよ。

(6) アミロースを希硫酸とともに短時間加熱して部分的に加水分解し,分子量1.62×103の糖を得た。この糖は,何分子のグルコースが結合したものか。また,この糖に無水酢酸を作用させて,−OHの全てをアセチル化した。アセチル化された糖の分子量は,もとの糖に比べいくら増加したか。

 

(1) [C6H10O5]n + n/2H2O → n/2C12H22O11 より,デンプン1mol(=162ng〕)からマルトースn/2mol(=342×n/2g〕)生じる。デンプン32.4gでは,342×n/2×(32.4/162n)34.2g

(2) アミロースは[C6H10O5]nなので,分子量は162n。よって,2.43×105162nより,n1.5×103〔個〕

(3) スクロース1molから単糖2mol生じる。また,1molの単糖から1molCu2Oが生成するので,物質量〔mol〕の量的関係は,生じたCu2O=生成した単糖=2×(分解したスクロース)となる。分解したスクロースは,(0.409/144)/2mol〕。これを質量〔g〕にすると,(0.409/144)/2×342g〕。分解したスクロースの%は,(0.409/144)/2×342/1.71×10028.428〔%〕。

(4) [C6H7O2(OH)3]n[C6H7O2(OH)(OCOCH3)2]nの変化なので,セルロース1mol(=162ng〕)からアセテート1mol(=246ng〕)生成する。アセテート41gを生成するに必要なセルロースは,162n×(41/246n)27g

(5) [C6H7O2(OH)3]n3n(CH3CO)2[C6H7O2(OCOCH3)3]n3nCH3COOHなので,セルロース1mol(=162ng)と無水酢酸3n mol(=3n×102g〕)が反応するのでセルロース8.1gでは,3n×102×(8.1/162n)15.315g〕。また,セルロース1mol(=162ng)からトリアセチルセルロース1mol(=288ng〕)生じるので,セルロース8.1gでは,288n×(8.1/162n)14.414g

(6) アミロースを加水分解して生じるデキストリン[C6H10O5]nを考える。このデキストリンの分子量は162nなので,162n1.62×103より,n =10.0mol〕。また,アセチル化すると[C6H7O2(OH)3]10[C6H7O2(OCOCH3)3]10の変化なので分子量の変化は,288×101.62×1031.26×103